黄金株の相続|保有者が死亡するとどうなる?
黄金株も「株式」という財産である以上、保有者が死亡すれば相続の対象になります。
ここで重要なのは、通常の株式譲渡制限だけでは相続そのものを防げないことです。相続は株主が任意に行う「譲渡」とは異なるため、後継者以外へ黄金株が承継される可能性について別途対策を検討する必要があります。
中小企業庁も、拒否権付株式を持つ経営者が死亡した際に、会社として望ましくない相続人が黄金株を取得し、拒否権を行使する可能性に注意が必要だと説明しています。
事業承継では「黄金株の出口」まで考える
先代経営者が黄金株を持つ目的が「後継者が一人前になるまで監督すること」であれば、永久に拒否権を残す必要がない場合もあります。
そのため、事業承継の設計時には、遺言、取得条項その他の種類株式設計、会社による株式取得に関する制度などを含め、先代経営者の死亡や一定時期の到来後に黄金株をどのように扱うかを検討することが重要です。
相続・会社法・税務が同時に関係するため、実際に導入する際は司法書士、弁護士、税理士など必要な専門家と内容を確認することが適切です。
黄金株の相続税評価|拒否権があるから高くなる?
黄金株には非常に強い経営上の権限があるため、「普通株式より相続税評価額も大幅に高くなるのでは」と考えやすいところです。
しかし国税庁が公表している種類株式の評価上の取扱いでは、会社法第108条第1項第8号の拒否権付株式は、拒否権を考慮せず普通株式と同様に評価するとされています。
つまり、「黄金株だから拒否権プレミアムを上乗せする」という単純な評価方法ではありません。
非上場会社の株式評価そのものは別途必要
「普通株式と同様に評価する」といっても、非上場株式の評価が簡単という意味ではありません。
国税庁によると、取引相場のない株式は、会社の規模や取得する株主の立場などに応じ、類似業種比準方式、純資産価額方式、その併用方式、配当還元方式などによって評価されます。
そのため、黄金株を事業承継に使えば自動的に自社株評価額が大きく下がる、という制度ではありません。節税効果だけを目的として導入を判断するのは適切ではなく、経営権と財産承継の両面から検討する必要があります。
黄金株と事業承継税制|保有者に注意
中小企業の事業承継では、法人版事業承継税制の利用を検討する場合があります。中小企業庁は、特例措置の認定要件に関するマニュアルで、拒否権付株式、いわゆる黄金株を発行している場合について注意点を示しています。
たとえば第一種特例相続認定に関する要件では、第一種特例経営承継相続人以外の者が拒否権付株式を保有していないことが要件として示されています。
黄金株は事業承継に役立つ一方、事業承継税制の認定関係にも影響する可能性があります。「先代が黄金株を持ったままでよいか」は、利用する制度と承継時期を含めて確認する必要があります。
黄金株は買収防衛策として使える?
黄金株の拒否対象に取締役の選解任、合併、事業譲渡などを含めれば、第三者による買収後も重要な会社行動を阻止できる可能性があります。その意味では、買収防衛の機能を持たせることは可能です。
しかし、上場会社が自由に黄金株を発行して買収を阻止できるわけではありません。
東京証券取引所は、取締役の過半数の選解任その他の重要事項について種類株主総会の決議を求める拒否権付種類株式について、株主の重要な権利を不当に制限し得るものとして、原則として上場廃止基準との関係が問題になることを明示しています。
一方、会社の事業目的、黄金株の発行目的、割当先の属性、権利内容などを踏まえ、株主・投資者の利益を侵害するおそれが少ないと東証が認める場合は例外があります。JPXは例として、民営化企業が国の政策目的との重大な矛盾を避ける目的で国を割当先とするケースを挙げています。
したがって黄金株は「簡単に導入できる万能な買収防衛策」ではなく、とりわけ上場会社では一般株主の権利や上場制度との整合性が非常に重要になります。
黄金株の導入事例|INPEXの甲種類株式
日本で黄金株を理解する際の代表的な事例が株式会社INPEXです。
INPEXが2026年6月30日時点で公表している株式情報では、発行可能な甲種類株式は1株、実際の発行済み甲種類株式も1株で、株主は経済産業大臣です。
INPEXの定款では、経営上の一定の重要事項について、通常の株主総会または取締役会の決議だけでなく、甲種類株主総会の決議も必要とされています。
INPEXが公表している対象事項には、次のようなものがあります。
- 一定の場合における取締役の選任・解任
- 重要な資産の全部または一部の処分等
- 一定の定款変更
- 合併・株式交換・株式移転など一定の統合
- 資本金の額の減少
- 解散
INPEXは、甲種類株式について、投機的な買収や外資による経営支配などによって日本向けエネルギーの安定供給に果たす役割へ否定的な影響が及ぶことを避ける目的などを説明しています。
一方でINPEX自身もリスク情報として、経済産業大臣による拒否権行使が会社や普通株主の利益と相反する可能性、普通株式の市場価格への影響、経営自由度への影響などを明示しています。
「黄金株 日本製鉄」とは?日本製鉄自身の黄金株と混同しない
「黄金株 日本製鉄」という話題は、日本製鉄株式会社自身が日本国内で黄金株を発行したという意味ではなく、日本製鉄によるU.S. Steel買収に伴って米国政府がU.S. SteelのGolden Shareを保有する仕組みを指す場合が中心です。
日本製鉄は2025年6月、U.S. Steelおよび日本製鉄北米とともに米国政府とのNational Security Agreement(NSA:国家安全保障協定)を締結し、同月18日にU.S. Steelの買収を完了しました。日本製鉄側はU.S. Steelの普通株式を100%保有し、一方で米国政府がGolden Shareを保有するガバナンス体制となっています。
U.S. SteelのGolden Shareで米国政府が持つ権限
日本製鉄の公表資料によると、米国政府はGolden Shareに基づき独立取締役1名の選任・解任権を持つほか、一定の重要事項について同意権を持ちます。
対象として公表されている事項には、NSAに基づく約束済み設備投資の削減、U.S. Steelの名称・本社所在地の変更、米国外への法人所在地変更、生産や雇用の米国外への移転、一定の米国内競合企業の買収、米国内製造施設の閉鎖・休止に関する一定の決定などがあります。
また、日本製鉄の資料では、このGolden Shareには通常の投票権はなく、配当を受ける権利もなく、譲渡も禁止されていると説明されています。
日本の会社法上の黄金株と米国のU.S. SteelにおけるGolden Shareは、法律上の根拠や制度設計が同一ではありません。「Golden Share」という呼称が共通していても、それぞれの国の法制度と個別契約・定款等に基づいて内容が決まる点には注意が必要です。
黄金株の「銘柄」を普通の株式投資と同じ感覚で探せる?
黄金株は、通常の上場普通株式のように証券会社で自由に売買することを前提とした株式ではないケースが一般的です。
たとえばINPEXでは、東京証券取引所で売買されている普通株式とは別に、甲種類株式1株を経済産業大臣が保有しています。したがって「INPEXの普通株を100株買えば黄金株の拒否権も得られる」ということではありません。
U.S. SteelのGolden Shareについても、米国政府が保有する特殊な権利を伴う株式であり、一般投資家向けの投資銘柄として売買する株式とは性格が異なります。
黄金株を導入する前に確認したいチェックポイント
- 目的:事業承継・企業防衛など、なぜ拒否権が必要なのか
- 対象事項:どの決議だけを拒否できるようにするのか
- 保有者:誰に黄金株を持たせるのか
- 保有期間:いつまで拒否権を残すのか
- 相続:保有者が死亡した場合に誰が取得するのか
- 出口:役割を終えた黄金株をどう処理するのか
- 資金調達:将来の投資家・金融機関・M&Aへの影響はないか
- 税務:相続税・贈与税や事業承継税制との整合性
- 登記:定款変更や発行後に必要な変更登記を行えるか
- 上場会社:証券取引所の上場規則に抵触しないか
まとめ|黄金株は「会社を守る強い権利」だからこそ出口設計が重要
黄金株とは、一般に会社法第108条第1項第8号に基づく拒否権付種類株式を指す通称です。株主総会や取締役会で決議する重要事項について、通常の決議とは別に黄金株の種類株主総会による承認を必要とすることで、特定の株主に強力な拒否権を持たせられます。
事業承継では、普通株式を後継者へ移しながら、先代経営者が重要事項に対する監督権限を一定期間残す方法として活用できます。また、設計内容によっては買収などに対するチェック機能も持たせられます。
一方で、拒否権が強すぎれば後継者の経営を妨げたり、会社がデッドロックに陥ったり、外部からの資金調達やM&Aに影響したりする可能性があります。さらに、黄金株保有者が死亡すれば株式自体が相続財産となるため、誰に承継されるかを考えないまま導入するのは危険です。
相続税評価については、国税庁が拒否権付株式について「拒否権を考慮せず普通株式と同様に評価する」と示しており、黄金株にしただけで自社株評価額が自動的に下がるわけではありません。
実例としては、INPEXが経済産業大臣に甲種類株式1株を発行しています。また、日本製鉄によるU.S. Steel買収では、米国政府がU.S. SteelのGolden Shareを保有し、一定の国家安全保障上重要な事項について同意権等を持つ体制が設けられました。ただし、両者は適用される法制度や具体的な権利内容が異なります。
黄金株で最も大切なのは「拒否権を作ること」ではなく、「誰が、何を、いつまで拒否できるのか」「死亡・退任・承継後にその権利をどう終わらせるのか」まで設計することです。
※本記事は2026年8月時点で確認できる公表資料をもとに、黄金株・種類株式・会社法・事業承継等に関する一般的な情報を提供する目的で作成しています。個別企業への黄金株導入、定款変更、株式発行、相続税申告、事業承継税制の適用等について法的・税務的な結論を保証するものではありません。必要となる決議、定款条項、登記書類、税務上の取扱いは、会社の機関設計、既存株主、既存種類株式、株式の譲渡制限、発行方法その他の事情によって異なります。実際に導入・変更・相続・申告を行う場合は、最新の法令・通達を確認するとともに、弁護士、司法書士、税理士等の専門家へ個別にご相談ください。



